監修:国立病院機構大阪医療センター 血友病科・感染症内科 西田 恭治
先生
血友病の原因となる遺伝子を持っている女性を「血友病保因者」と言います。保因者は血友病に似た出血症状を経験することがあります。保因者かどうかを知るには専門的な医療機関での遺伝学的検査(保因者診断)が必要になります。
血友病保因者とは、血友病の原因となるX染色体を持っている女性のことです。
例えば、血友病の父親と、血友病ではない母親との間に生まれた女子は、父親から血友病の原因遺伝子を受け継いでいますので、保因者となります。母親からのX染色体があるため、通常は血友病を発症することはありません。
保因者は、遺伝上、保因者であると確定している「確定保因者」と、保因者である可能性がある「推定保因者」に分類されます。
日本に血友病Aの患者さんは5,869人、血友病Bの患者さんは1,318人いると報告されていますが(血液凝固異常症全国調査 令和五年度報告書)、保因者の数はその数倍と考えられています。
血友病患者さんは凝固因子の活性が低いため、出血が止まりにくいのですが、保因者の凝固因子活性のレベルはさまざまです。活性が低い場合は血友病のような症状が現れます。保因者の月経過多、産後出血、青あざ、手術後の出血、鼻出血、抜歯後の出血、関節内出血といったような出血の経験は少なくありません1-4)。
保因者が出産するときや大きな手術を受けるとき、凝固因子活性のレベルによっては、大量出血を防止するための対策を講じる必要があります。また、赤ちゃんがより安全に生まれてくるための分娩法をとる必要もあります。詳しくはこちらをご覧ください。
1 Sharathkumar A, et al.:Haemophilia. 15(1):91-100,
2009.
2 Miesbach W, et al.:Haemophilia.17(2):246-251,
2011.
3 Plug I, et al.:Blood. 108(1):52-56, 2006.
4 Mauser
Bunschoten EP, et al.:Thromb Haemost. 59(3):349-352, 1988.
保因者であるかどうかを調べる検査(保因者診断)には、凝固因子活性を調べる検査と、血友病の原因遺伝子を調べる遺伝学的検査があります。凝固因子活性を調べる検査は一般的な医療機関で、保険診療で行われますが、遺伝学的検査はごく限られた専門的な医療機関で実施しています。しかし、凝固因子活性は個人差が大きいためにこの検査による保因者診断は適切でないと現在では考えられています。
保因者であることを知ることができ、安全な妊娠や出産の準備ができる半面、結果によっては知りたくなかった情報を手に入れることになります。保因者診断を受けるのは、あくまで本人の自由な意思であり、診断を受けないという選択肢もあります。
一方、保因者診断とは別に、自分の凝固因子活性を知っておくことは「保因者健診」として意味があると言えます。凝固因子活性が低い場合には、手術を受ける時やけがをした時、出産時にあらかじめ医師に伝えることで、より適したケアを受けられるからです。
※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2024年10月時点の情報です。
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