Kさん 東京都在住 40歳代前半 血友病A(中等症)写真はイメージです。
映画監督を生業とするKさん。他にも脚本や企業の動画作成など、映像制作業に幅広く携わっています。監督業は世間のイメージよりもずっと重労働。休日にお酒とスポーツ観戦でストレスを発散しながら、日々全力で仕事に打ち込んでいます。
*2024年7月取材
フリーランスで映画の監督や脚本の仕事をしています。幼少期、よく親に街の映画館に連れて行ってもらった記憶があるので、それが今の職業につながる原体験と言えるのかもしれません。子どもの頃からずっと映画と音楽が両方好きだったのですが「映画ならどっちも楽しめる」という若者らしい安易な発想から、20代前半でこの道を選びました。
恋愛などの心模様を描く人間ドラマが好きで、制作するのもそのような作品が中心です。正直この仕事は、99%が大変な仕事で、喜びを感じる部分は1%程度です。でもその1%があるからこそがんばれているとも思います。いつかは映画史に残る名作を残すことを目標に、今後もいい作品を撮り続けていきたいと思っています!
小学校2年生の頃、上級生と遊んでいるときにふざけてお腹を殴られて、それで血尿が出たんですよね。初めて病気のことを意識したのはこのときだったと思います。小学校ではサッカーもミニバスもやっていたので、けっこうな頻度で出血をしては病院へ行って薬を投与する日々でした。
特にミニバスではキャプテンとしてがんばっていたのですが、次第に足の痛みに勝てなくなり、プレーを諦めることに。今でも病気を特別恨むようなことはないのですが、このときばかりは少々ショックでしたね。ただ、それ以外の生活はわりと普通の人と変わらないものだったのではないかと思います。
高校まではずっと「出血したときに病院に行く」治療スタイルで、特に定期投与はしていませんでした。高校を卒業してから上京し、都内の病院で定期投与を勧められ、そこからは2か月に1回くらいのペースで通院。この頃から自己注射も始めました。
ずっと気になっていたのは、薬が冷蔵庫で保管スペースをとることでした。仕事で長期ロケになると10個くらい持ち出して数週間外泊することもあり、そんなときも不便さを感じていました。それは主治医の先生にも伝えていて、現在の薬に出会え、管理がだいぶラクになりました。
映画やドラマの監督と聞くと、イスにどっしり座って指示ばかり出す人、という印象がありますよね。よっぽどの大作なら別ですが、最近のほとんどの撮影現場は監督も忙しく働いています。重いものを持って動かしたり、時間がないので走り回ったり、むしろ重労働です。そのため追加で投与が必要な際には薬を投与するようにしています。大変な分、たくさんのスタッフと作品をカタチにしていくこと、観た人に影響を与えられることの喜びは大きく、とてもやりがいのある仕事だと思っています。
病気のこと、ちゃんと治療をしていれば普通の人と同じ日常生活ができることは、プロデューサーなどの主要スタッフには伝えるようにしています。余計な心配や迷惑はかけたくないですし、信用の問題ですからね。
だいぶ過去の話ですが、1週間で8時間しか寝られないという超過酷な働き方をしたことがあります。病気とは全然関係なく生命の危機を感じましたね(笑)。今はそこまでではないですが、正直キツイときも多いです。好きで始めた仕事なのでなんとか続けられていますが、もしこの仕事をやってみたいという人がいたら「絶対にやめたほうがいい」と伝えたいです(笑)。
そんな仕事でのストレスを発散するために、休日は仕事仲間とお酒を飲んだり、好きな格闘技やスポーツを観戦したりしています。ただどれものめり込むような趣味ではないので、やっぱりどうしても仕事が一番の人生なのかなとは思います。
これからの話をすると、例えば注射をしなくていい飲み薬ができるとうれしいですね。特に子どもが頻繁に注射を打つのは酷だと感じますので。そしていつの日か、遺伝子治療の進歩などでこの病気が完全に治癒する未来が来ることも期待します。
仕事では、映画史に残るような作品を撮るのが目標です。近年は、売れることを重視しすぎていたり、映像の美しさばかりが先行したりする映画が多く、映画本来の面白さを感じる作品が少ないように思います。だからこそ、技術や派手さだけではない、本当の意味で面白いと評価される映画を常にめざして、これからも撮り続けたいですね。
私が日々大切にしている考え方
自分で決めたことは、最後までやり抜く!
会社に所属せずフリーランスとして働いているということもあり、仕事に責任感を持つことは常に大切にしています。というのも、裏切られた経験がたくさんあるからです。突然連絡がとれなくなったり、「私やります!」と張り切っていた人が現場に来なかったり……。一見ポジティブな人間ほど信用できないものです(笑)。
なので、無理やりいつも前向きである必要はないと思うんです。ただ「倒れるときは前に倒れる」ことは意識しています。変に力を入れなくても、常に責任感を持って働いてさえいれば、自然とそうなるのではないかなと思っています。
東京医科大学病院 臨床検査医学科 近澤 悠志 先生
Kさんの診療に関わらせて頂くとき、昭和の最後に生まれ、平成で育ち、そして令和で一花咲かせたいという思いを持つ時代感が自分と全く同様なところに着目し、生きる世界は違いながらもどこかで共感しています。
幼少期にスポーツを諦めざるを得なかったというつらい経験もありながら、その後の治療薬や治療目標の常識の変遷もあってか、血友病という病気を『特別恨むことはない』とKさんから率直に語られていることに大きな希望を感じました。正しい対応ができれば、現代の血友病患者は普通の人生を歩んでいけるのだというメッセージが詰まった一言だと思います。
このように、血友病がかなりコントロールできるようになった今、次は何に注意すればいいのでしょうか?Kさんのこれからの人生は血友病に限らず、生活習慣病がリスクとなる心血管疾患や悪性腫瘍などの生命予後に直接関わる疾患にも注意を払うことも必要であると思っています。これは、Kさんに限らず、そして血友病に限らず、同じ時代を生きる人々全員に当てはまることです。バランスのとれた食生活、適度な運動習慣、質の良い睡眠の確保など、当たり前ですが、案外難しいことをしっかりやっていく必要があります。健康診断も定期的に受けていけるよう、確認していくことに努めたいと思います。もちろん血友病についてもしっかりフォローして参ります。お互い健康に気を付けながら、元気に歳を重ねていけるとよいですし、Kさんがやりたいことを思い切り実現していく人生をこれからも影ながら応援していきたいと思っております。
※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2024年10月時点の情報です。
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