Nさん 東京都在住 30歳代前半 血友病B(重症)
インヒビター保有写真はイメージです。
一般企業の会社員であるNさんは現在、安心のフルリモートワーク。休日は推し活、ウォーキングを兼ねたスマホゲーム、オンラインゲームなどの趣味を満喫。自分の好きなことをトコトン楽しむという、他人から見ても充実度の高い毎日を過ごしています。
*2024年10月取材
普段はデスクワークの会社員です。コロナ後から完全在宅勤務となり、病気のことをそこまで気にせずに安心して働けています。
一方、休日は趣味に明け暮れています。「推し」の楽曲を聴き、LIVEがあれば地方にまで出向くのが定番です。街中を歩きながら楽しめるスマホゲームも好きで、よく友達と散歩がてら遊んでいます。最初の頃は出血したり、次の日足が痛くなったりもしました。でも、徐々に歩ける距離が伸びていき、体力面での向上を感じるところも含めて楽しいんです。主治医の先生からはプールを歩く運動を勧められたこともありましたが、こっちのほうが何倍も楽しいので、続けられています(笑)。
好きなことをたくさんできていますし、毎日が充実しているなとあらためて感じますね。
印象に残っているのは、小学校3年生のときの初めての自己注射です。場所はなぜか、家族旅行の宿泊先。最初はすごく戸惑い、躊躇しましたが、20分ほどでなんとか成功しました。それまで自宅では母に注射してもらっていたのですが、急を要するときに母が近くにいないと困ります。すぐに打つほうが効き目がいいと主治医から聞いたので、自分でできるようになり、少しだけ心に余裕が生まれました。
また以前は、足の関節内出血が多かったんです。ひどいときは緊急で整形外科を受診し、直接膝の中の血を抜く処置をしてもらったこともありした。こんなときは「もっと効く薬があったらいいな」と、よく思っていましたね。注射を打って効きが悪かったり、出血がなかなか止まらなかったりしたときなども同様です。
これまでは基本的に週3回、静脈への定期投与を続けてきました。それを半年ほど前から、皮下注射が可能な治療薬に切り替え、いろいろなことがポジティブに感じられるようになったんです。
きっかけのひとつは、主治医から「血管を守ることができる」と聞いたことで参加した、皮下注射の薬の治験でした。その治験は途中で参加中止となったのですが、その後主治医から「似た効果が期待できる」と紹介されたのが、現在使用している薬です。毎日の投与が必要なのですが、投与時間は1回数分程度。しかもコンパクトなので保管も持ち運びも便利になったと感じています。
声優歌手の水樹奈々さんを推しています! 高校時代に入院していたときに、たまたまネットで「ETERNALBLAZE」という曲を聴き「LIVEに行ってみたい」と感じました。聴けば聴くほど、その歌唱力、表現力、パワフルさ、パフォーマンス、演出などにハマっていきました。コロナ前までは、年10回くらいのペースでLIVEに参加。移動手段は母の車なのですが、宮崎、大阪、三重、青森なんかも平気で行っていました。ちなみに、母も一緒にハマっています。
アップテンポな曲が多いので、正直、LIVE後の体はキツイです(笑)。でもそれ以上に元気をもらえるので、たとえ病気が辛かったとしても、自分にとって絶対に欠かしたくない趣味です。
モンスターハンターNowというスマホゲームにも熱中しています。街中を歩き回りながらなので当然体への負担もあるのですが、運動不足の解消にはむしろぴったりだと感じます。以前スポーツジムに通っていたこともあるのですが、長続きしませんでした。ゲームがあれば楽しく運動が続けられるので、一石二鳥の趣味だと思います。
PCでのオンラインゲームも趣味のひとつです。ゲーム自体もおもしろいですし、チャットなどを通じて仲良くなることもあり、そのあたりにも魅力を感じています。
2つのゲームを教えてくれたのは、どちらも高校時代の友達。病気のことも話すほどの仲ですし、信頼できる友人のおかげで、人生の充実度がぐっと高まっていると思います。
静脈注射が皮下注射になった時点で、血友病治療の進化を実感しています。欲を言えば、血友病およびインヒビターの完治は期待したいですが、現状でも大きく不満はありません。
今後の目標としては、まずは日々を健康で過ごすこと。それからゲーム配信でお小遣い稼ぎにも挑戦してみたい気持ちもあります。そこからさらにいろいろな人とつながっていければ最高です。そしていずれは、結婚して幸せに暮らしたいです。もし子どもができたら、自分が子どものときにできなかった、スポーツや体を動かす遊びを率先して教えてあげたいですね。今は母と暮らしているので、その母を安心させてあげたいという思いもあります。明るく楽しい未来を願って、まずは目の前の日々を、明るく楽しく過ごしていこうと思っています。
アクティブに生きる私の原動力
奇跡を導いてくれた「推し」の存在。
23歳のとき、左腕の出血が原因でコンパートメント症候群になり、2回の緊急手術をしました。担当の先生からは「左腕はなくなるか、残ったとしても動かないかもしれない」と言われ、絶望したことを覚えています。手術は無事成功し、左腕はなんとか残ることに。ただ、術後はまったく動かせなかったので、リハビリでは何度も心が折れそうになりました。その度に救ってくれたのが、水樹奈々さんの楽曲です。聴くだけで勇気づけられましたし「また元気になってLIVEに行きたい」という強い気持ちが、心の支えになりました。結果、握力は弱いながら、普通に動かせる程に回復。先生も「奇跡的だ」と驚くほどでした。「推し」は、生きる力につながっていると思います!
東京医科大学 臨床検査医学分野 教授 天野 景裕 先生
N君とは、彼が小さいころからの付き合いなので、もう30年来の関係です。血友病Bでハイレスポンダーインヒビターが発生してしまったため、免疫寛容療法をトライしましたが、芳しい効果は得られませんでした。幼少期から中学生くらいまでは、バイパス止血療法のオンデマンド対応しかできなかったため、足、膝、肘関節内出血、腸腰筋出血を含む各種筋肉内出血を何度も何度も繰り返し、真夜中や旅行先から病院に来なければならないということも、多くありました。入院も繰り返し必要であったため、学校生活での友人関係の構築なども大変だったでしょう。本当につらかっただろうなと思います。
ある時期から定期投与ができるようになったことで、学校生活も安定し、推し活にもはまり、外来受診時にはそんな話を聞かせてもらえて、嬉しく思いました。リハビリテーションにも通うようになり、サマーキャンプにも参加してくれました。キャンプでは、天野から「もっと、運動して腹筋つけなきゃだめだぞ!」「そのうち、彼女紹介しろよ!」なんて○○ハラなんじゃないか?(笑)なんて会話も楽しくできるようになりました。そんな中、左腕のコンパートメント症候群での手術経験はとても厳しいものでした。推しの力で奇跡的な回復を見せてくれて、本当に良かったです。
幼少期からいろんなつらいことが多い人生を歩んできたN君をずっと見てきました。「自分が世界で一番つらい状態だ。なんでこんなことになるんだ!」と自暴自棄になっても仕方がないんじゃないかとさえ思います。ですが、彼はそんなことを全く感じさせないような素敵な笑顔をいつも見せてくれて、推しの話などしてくれます。そんな彼のことを天野は尊敬しています。
現在、血管を休ませることができる皮下注射による治療を開始して半年が経ちますが、安定した状態を継続できています。本人に余裕ができてきたからでしょう。「いずれは結婚して幸せに暮らしたい」という言葉を聞いて、涙が出るほど嬉しいです。
血友病患者さんとそのご家族・関係者の皆さん。まだまだ血友病医療はどんどん進歩しています。明るく楽しい未来を思い描き、なりたい自分になれるように、医療者との信頼関係を大事にして血友病のケアをしていきましょう。N君にとっての推し活のような何かを見つけることができると良いですね。
※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2024年11月時点の情報です。
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