Nさん 神奈川県在住 小学生 血友病B(重症)写真はイメージです。
現在小学校に通うNさんは、なんとサッカー少年。幼少期から体を動かすことが大好きで、今でもそれを制限されることはほとんどないそうです。今回はNさんのご両親に、ご本人のこれからや親としての考え方などについてお話ししていただきました。
*2023年10月取材
今は週1回の定期補充を母親の注射で行っていて、特に問題なく毎日を過ごしています。それどころか、子どもは今サッカーに夢中。将来の夢はサッカー選手だそうで、毎日のようにボールを蹴っています。
サッカーが激しいスポーツであることは知っていましたが、制限するつもりはまったくありませんでした。病気だからと言ってあれもダメこれもダメみたいな生活は、むしろ健康によくないと思います。病気のことは本人もわかっていますし、コーチにも伝えてあるので、特に心配もしていません。それよりも、1度きりの人生ですし、自分のやりたいことを自分で決められることが大事です。親としては、それを最大限サポートして、あとは見守る。子育てって、それでしかないような気がするんです。
成長するにあたって3歳か4歳のときに週1回の定期補充に変わりました。薬が変わることによる心配もありましたが、主治医の先生が「週1回しっかり投与していれば普通の子と変わらないですよ」と言ってもらえて、すごく気がラクになりました。
それからというもの、病気だからと言って何かを制限することをやめたんです。今の治療は、母親による注射が週1回あるのと、月に1回の病院での受診、半年に1回のエコーやMRIなどの検査があります。それだけでも本人はけっこうな負担を感じているようですが、先生に言われたことはきちんとする。でもあとは普通の子と同じように生活する。そんなメリハリさえあれば、何も心配はいらないと感じています。
小学校でも、まわりの子とまったく同じように過ごしています。好きな授業は体育だそうです。また、子どもが今一番力を入れているのがサッカーです。週3回クラブに通っていて、試合にも出ています。本人が言うには、サッカーは「バチバチに勝負できるところ」が面白いとのことです。学校の先生やクラブのコーチには、何かあればすぐ連絡をもらうことになっているので、安心して行かせています。他にも、週2回はバドミントンをしていて、これまでにはボクシング*やスイミングに通っていた時期もあります。とても病気を抱えている子とは思えませんよね(笑)。
* ヒトと対 戦しないシャドーボクシングという内容
子どもがいると親同士で話す機会も多いのですが、病気のことは「聞かれたら話す」くらいにしています。子どもが日々普通に過ごしている分、親も自然体でいることは大事だと思うので。本人は、仲良くなった友達に打ち明けることが多いようで、その友達の親から「ウチの子から聞いたんですけど~」と聞くのがいつものパターンです。知ってもらえる人が増えると、やっぱり気持ちが少しラクになりますね。
本人の上に3人兄弟がいるのですが、上の3人は手加減なしで、いつも格闘しています(笑)。でも、そのくらいでちょうどいいと感じています。
週1回の自宅での注射は、麻酔のクリームを塗るところから止血まで、約1時間かかります。その時間は何も動けないので、体を動かすことが好きな本人としては負担が大きいですし、親も同じです。なので、今後は薬の投与間隔が長くなること、もっと言えば、飲み薬で済むくらい手軽になることを期待します。
これからも、好きなサッカーはもちろん、本人がやりたいと言ったことには積極的にチャレンジさせるつもりです。何でも試してみると「これくらいだと痛いんだな」と、自分でうまくコントロールできるようになりますから。病気だからと言って、親がブレーキをかけることは一番したくありません。もちろん病気とはしっかり向き合いながらも、できる限りいろいろな経験をして、まっすぐに人生を歩んでいってほしいです。
この子の人生はまだまだ先が長く、その間に薬などの医学的な進歩があることを大いに期待しています。例えば、静脈注射ではなく皮下注射で投与できる薬が開発されるとか、定期補充の間隔が少しでも長くなるとか。もっと言えば、将来的に遺伝子治療などで治せるようになることも願っています。
すべては、本人がこれから成長してやりたいことが出てきたときに、病気によって制限されないようにしたいからです。「こう育ってほしい」などという理想像はありません。少しでも辛い思いをすることが減ってほしい、ただそれだけなんです。そのために今後も親として全力でサポートしていきたいと思っています。
親として大切にしている考え方
ネットを見すぎない&先生を信じる!
血友病が発覚した当初、私たち親はどんな病気かをまったく知らなかったので、時間さえあればスマホで調べる日が続きました。ネットにはいいこともわるいこともたくさん書いてあります。でもやっぱり、わるいことの方が頭に残ってしまって。事実かどうかもわからないことを見ては落ち込んで……みたいなことを繰り返していました。子どもに「最近笑ってないよ?」と言われて、これではいけないと気づいたんです。
結局、専門家である先生を信じるしかないと思うんです。その先生が「普通の子と変わらない」と言ってくれたことで救われました。それからは本人が膝を擦りむいたときも「注射しているから血はすぐ止まったでしょ」と伝えていますし、実際に問題はありません。思えば、治療が少し面倒なだけで、それ以外はほぼ普通の暮らしです。必要以上に悩んだり怯えたりする必要は何もないと思います。
聖マリアンナ医科大学 小児科学教室 講師 長江 千愛 先生
N君は他院で診断後に私達の病院に紹介されてきました。最初は病院に通院しながら出血予防のための定期補充療法を行いました。その後、お母様に在宅家庭注射の指導をし、手技を習得してもらってからは、自宅で週1回、定期補充療法をされています。定期補充療法で、高い第Ⅸ因子活性を保つことが出来ているため、本人がやりたいスポーツ、ご家族がやらせたいスポーツを楽しむことができています。幼少期にボクシングをやらせたいと相談を受けた時にはさすがに少し躊躇しましたが、凝固因子製剤の注射前後で第IX因子活性を測定し、予想通りの因子活性の上昇がえられているか、インヒビターが出現していないかを定期的な採血で確認するとともに、関節の診察や単純レントゲン、超音波検査、MRI検査を定期的に撮影し、関節出血や関節症のスクリーニングを欠かさないことで、やりたいスポーツをやりたいという希望を叶えてきました。出血のリスクが高いスポーツは決して推奨はされませんが、十分な出血予防や関節のスクリーニングをおこない、リスクを理解した上でチャレンジすることはできると思います。怪我にも耐えうる第IX因子活性を保てるように、スポーツに合わせて注射をするようにタイミングを工夫することも大事です。
一時、コロナ禍で外遊びが制限されるなか、体重が急激に増えた時には出血ではないのに足関節が痛くなったことがありました。関節MRIを撮影した結果、出血や血友病性関節症ではなく、体重増加に伴う関節への負担増大による骨髄浮腫が疼痛の原因であることが判明しました。食事内容を見直し、ダイエットに一緒に取り組んだこともありました。
日々の診療の中で、患者さんやそのご家族の気持ちに常に寄り添い、どんな生活を送りたいか、どんなスポーツをしたいか、人生において何を大事に生きていきたいかの気持ちを聞きながら、患者さんやそのご家族と一緒に、一人一人の治療方針を考えていけたらいいなと思います。
聖マリアンナ医科大学病院 看護部 吉川 喜美枝 さん
N君は出血にて当院紹介入院となり、入院中に血友病の指導を行い、血友病であっても健常児と同じ生活がしたいと定期補充療法を開始しました。N君の自宅は遠方のため、普段は紹介元の病院で治療を受け、長期休みには当院を受診していました。加えて出血時の対応、不安に思うこと等は電話をもらい、製剤補充だけではなく、RICEの実施、トラネキサム酸内服などの指示も伝えるなど、紹介病院と当院で連携を密に取り治療を行ってきました。3歳になると活発になり定期補充していても出血してしまうこともあり、出血時にタイムリーな受診が難しいこと、通院の負担も考慮して家庭注射の検討を医師、看護師、N君のお母様と検討し導入することになりました。お母様には再度病気の知識を伝え、技術指導をしましたが、積極的であり理解度もよくスムーズに導入できました。N君の血管確保はかなり難しく、小さい頃はムチムチしていて難しく、現在は体重があり見えにくい状況ですがお母様は上手に実施しています。お母様の手技はすごいと思います。これからも、他院との連携、家族・患者さんとのコミュニケーションを図っていく必要があると思います。
聖マリアンナ医科大学 小児科学 名誉教授 瀧 正志 先生
N君は、かかりつけの病院から長期的なフォローアップを依頼されました。当院での最初のアプローチは、患者さんならびにご家族への疾病教育と在宅自己注射指導、そして定期補充療法を開始しました。かかりつけ病院では出血時の治療や凝固因子製剤の処方、当院では年に2回程度の定期検診を行います。輸注記録表を基に出血部位や回数、血液検査(インヒビター、輸注試験で第IX因子のトラフ値、ピーク値の測定)、関節可動域、筋力評価、MRIやエコーで早期関節障害のチェックを行います。これらの情報は患者さんご家族、かかりつけの病院と情報共有し、製剤の用量や注射間隔を調整します。
N君、これからも好きなスポーツを継続できるよう、注射は決められた日にしっかりしましょうね。また、もう少ししたら、お母さんに代わって君自身が自己注射できるよう頑張りましょう。吉川看護師が上手に教えてくれますから。
※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2024年10月時点の情報です。
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